「褒めて伸ばす」には叱るのも大事!教育に効果的な方法・言葉かけとは
「子どもの能力を伸ばしたい」と考えたときに、「褒めて伸ばす方法がよい」と聞いたことはないでしょうか。
しかし「褒めて伸ばす方法を具体的に知りたい」「褒めて伸ばす方法の注意点やデメリットを知りたい」と考える人も多いかと思います。
実は、「褒めて伸ばす」ためには、ただ褒めるだけではなく、適切に叱ることも大切です。
このページでは、褒めて伸ばす方法を実践するときのポイントや、正しい褒め方・叱り方について解説します。
もくじ
褒めて伸ばすことのメリット・デメリット
ここでは、「褒めて伸ばす」を実践する前に知っておきたいメリット・デメリットについて解説します。
結論:「褒めて伸ばす」には効果がある!ただし正しい褒め方が大切
後ほど詳しく解説しますが、褒めて伸ばすことには、「子どもの成長や関心を尊重できる」「子どものやる気を伸ばせる」など、たくさんのメリットがあります。
大人でも、「褒められるとやる気が出る」「叱られるより褒められたい」と思うことはあるはずです。そのため、子どもを伸ばすときにも褒めて伸ばそうと考える人は多いのではないでしょうか。
ただし、ただむやみに褒めるのでは、「褒める」効果がしっかりと発揮できません。それだけでなく、場合によってはデメリットが発生する可能性もあります。ここからは、「褒めて伸ばす」のデメリットについて解説します。
やみくもに褒めることのデメリット
「褒めて伸ばす」を不適切に行うと、どのようなデメリットがあるのでしょうか。弊害を避けるためにも、しっかりと知識を付けておきましょう。
「褒められる」ことが目的になってしまう
2008年に行われた実験では、人は褒められたときに脳の線条体という箇所が反応することが解明されました。この線条体は金銭をもらったときにも反応することがわかっています。
つまり、褒められることは、脳の中では「報酬」と同じような喜びと捉えられているのです。
また、「心地よい」「楽しい」と感じたときなどには、快楽に関係する脳内物質「ドーパミン」が分泌されます。このような快感を得るために、褒められること自体が目的になってしまう恐れもあります。
褒められることそのものが目的になってしまうと、子どもの成長において、下記のようなデメリットが発生します。
・褒められないことにはそもそもやる気が出ない
・褒められそうなことにだけ挑戦して、新しいことに取り組まない
・失敗を恐れて、難しいこと・失敗しそうなことにチャレンジしない
適切ではない褒め方には、このような弊害があることはしっかりと頭に入れておきたいところです。
出典:
「褒められる」ことは報酬- 脳の”喜ぶ”様子を画像で捕らえた!-|大学共同利用機関法人自然科学研究機構生理学研究所
ドーパミンを増やすことで得られるメリット|医療法人社団平成医会
プライドだけ高くなったり打たれ弱くなったりする弊害も
「褒めて伸ばす」を実践するときに注意したいのは、「叱る・注意すべきときは、きっぱりと注意する」ことです。
してはいけないことを放置して注意しないのは、褒めるのではなく、「甘やかし」であり、適切な行為ではありません。子どもが悪いことをしたときにフィードバックを受ける機会を失ってしまいます。
また過剰に褒めて子どもを動かすと、自分の力を実力以上に思い込んでしまい、うぬぼれが強くなってしまうリスクもあります。
そのような中で親以外の人に叱られると、動揺してすねたりキレたりなど、感情が抑制できない状態にもなりかねません。注意されるべきときに甘やかされると、子ども本来の実力や底力を発揮できなくなることを、肝に銘じておきましょう。
正しく褒めればこんな効果有り!
ここまでは、適切ではない褒め方をすることによるデメリットを説明してきました。しかし、正しく褒めることは、子どもの成長をサポートすることにつながります。ここからは、正しく褒めることのメリットについて解説します。
やる気を伸ばし成長マインドが育める
ポイントを押さえた褒め方をすれば、たとえ失敗したとしても「次につなげよう」「頑張ろう」と努力する成長マインドが育めます。
たとえば、普段から「丁寧に描けたね」「最後まで諦めずできたね」など過程を褒めてもらっていると、うまくいかなかったときでも「やり方がいけなかったんだ」「次はこうしよう」と、過程にフォーカスして物事を進められます。
子どもの成長・関心を尊重できる
成長においては、あくまで主役は子どもで、親や大人はそのガイド・サポートの役です。
子どもを適切に褒めることで、「子どもの成長や興味・関心のあることを尊重している」姿勢を示し、信頼感を構築できます。
子どもに声かけをするときも「できていない」部分に目を向けて注意するより、「子どもを認めている」「しっかりと見ている」ことを伝えることで、子ども自身が自分の価値を信じることができ、成長につなげられるのです。
健全な人格形成を促せる
褒めることを通じて、子どもの思いを受け止めた対応やポジティブな対応をすることで、子どもの感情処理能力や自己認識・自己コントロール力などによい影響を与えられます。
そもそも、子どもは生まれながらに言葉を会得しているわけではなく、大人とのやりとりにより、言語などを獲得していきます。そのため、いかに大人とよいコミュニケーションができるかが、健全な人格を形成する上では重要です。
子どもに対し、「よく頑張って歩いたね」「●●ちゃんのおかげで助かった」などときちんと言葉で伝えることで、自分の行動により相手がどんな気持ちになるのかを想像できるようになり、人格形成が促せます。
「叱って伸ばす」「怒って伸ばす」はNG?「褒めて伸ばす」と比べて効果はある?
ここまで「褒めて伸ばす」ことについて詳しく述べてきましたが、「叱って伸ばす」「怒って伸ばす」ことは子どもによくないのでしょうか?ここから詳しく解説していきます。
複数の実験で「叱る」よりも「褒めて伸ばす」方が効果的と立証
叱るのと褒めるのでは、褒める方がその人の能力を引き出せることが、複数の実験で明らかになっています。有名なのは、1925年にアメリカの心理学者であるハーロック博士により行われた実験です。
この実験では、子どもたちを称賛・叱責・放任・条件なしの4グループにわけ、算数のテストを行いました。
称賛組の子たちは試験結果の向上が称賛され、叱責組については、テストのミスについて厳しく叱られることを4日間行った結果、称賛組では学力が向上したのに対し、叱責組では一時的に学力が向上したものの、その後、低下する結果となりました。
叱ることは、初期の段階では効果があるものの、その効果は長続きしないことが解明されたのです。
子どもを不用意に叱ることの弊害
褒める方が叱るよりも子どもを伸ばせますが、叱ることには、具体的にはどのような弊害があるのでしょうか?ここから、詳しく解説します。
叱られた「原因」に目が行かなくなる
子どもの行動を叱り飛ばすと、子どもは自分を防衛しようとし、「大人の話を理解しよう」と理性的に考える余力がなくなります。
癇癪を起こしたり、八つ当たりを起こしたりといった別の行動に出るため、「自分がいけないことをした」と感じる経験が獲得できなくなるのです。
乳幼児期は「何がいけなかったのかな」「どうしてこの子は泣いているのかな」などと自分の頭で考え、心で感じる体験が非常に重要です。
その体験を通して、「トラブルを解決したい」「良好な関係を回復したい」という気持ちを獲得し、次の行動につなげられます。叱られた原因を理解する機会を与えるためにも、大人が適切に対応することが大切です。
叱った人や関連するものまで嫌いになる
人は「叱られた」というマイナスの結果を得たときに、結果の周囲にあるものにもマイナスの印象をもってしまいがちです。
たとえば「友達とボール投げをしていたら、A先生に叱られた」という経験があると、「ボール投げが嫌い」「A先生が嫌い」「A先生のいる園が嫌い」など、本来叱られた原因ではないものまで嫌いになってしまうこともあります。
いったん「嫌い」と判断してしまうと、今度は嫌いという偏見で相手を見てしまうため、「何がいけなかったから叱られた」という箇所を理解しにくくなります。行動を正す機会を失わないためにも、叱った理由を添えて、きちんと説明することが大切です。
大人をモデルとして自分より弱い存在に八つ当たりするようになる
子どもは、周囲の人をモデルとして、その言動を吸収する能力があります。
周囲の情報を吸収して自分の中に貯めることで、自分の行動を作り上げていくのです。とくに一緒にいる親の行動をよく見ており、よいことも悪いことも吸収しています。そのため、大人が子どもを叱ることでコントロールしようとすると、今度は子どももそれに倣うようになるかもしれません。子どもが自分より弱いものを怒ったり、脅したりして動かそうとするリスクがあるのです。
出典:モンテッソーリ教師あきえ「モンテッソーリ教育が教えてくれた「信じる」子育て」すばる舎、p41-45(2021)
褒めて伸ばす教育が日本で注目される理由
日本で今「褒めて伸ばす」教育が注目されていることには、複数の理由が考えられます。
一つは、1992年より実施された学習指導要領の影響、もう一つは、2002年より実施されたいわゆる「ゆとり教育」の影響です。
1992年の学習指導要領では、「 自ら学ぶ意欲と社会の変化に主体的に対応できる能力の育成」や「個性を生かす教育の充実」などに留意することが図られました。
また、ゆとり教育でも「 多くの知識を一方的に教え込む教育を転換し,子どもたちの自ら学び自ら考える力の育成を重視すること」が重視されたため、叱る・怒るよりも自然と「褒めて伸ばそう」という考えが広まっていったと考えられます。
ちなみに2018年に行われたアンケートによると、子どもを「褒めて伸ばす」と答えた子育て世帯は、全都道府県平均で51.3%でした。褒めて伸ばす子育て法は、日本で着実に市民権を得ていると言えるでしょう。
出典:
47都道府県別 生活意識調査 2018-19 年版(生活・家族編)|ソニー生命
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褒めて伸ばす3つのポイント!具体的な方法・言い方を解説
ここからは、「褒めて伸ばす」を実践するときの具体的な方法について解説していきます。
「おだてる」のではなく「認める」ことが大事
子どもを褒めるときは、過剰におだてる必要はありません。無理に褒めようとせず、子どもの行動などを「認める」姿勢が大切です。
前述のように、褒められることは、脳の中では「報酬」と捉えられます。そのため、おだてて子どもを動かそうとすると、褒められることが目的になるデメリットが生じやすくなるのです。
子どもを大人と同じように対等に扱い、「あなたがしたいことを最後までできてよかったね」と認めると、子どもの成長をサポートできるでしょう。
成果や人格ではなくプロセスや姿勢・努力を褒める
褒めるときは、成果までのプロセスや取り組みの姿勢・努力などに焦点を当てて褒めることで、能力を引き出せるという研究結果が報告されています。
そのため、「こんなに点数が取れてすごいね」「頭がいいね」と成果や人格を褒めるのではなく、「高得点が取れるまで頑張ったね」「色んな方法にチャレンジできたね」とプロセス(過程)などにフォーカスして褒めることがおすすめです。
褒め方とその効果については、1998年に発表されたコロンビア大学ミューラー博士らの研究が有名です。
教授らは、子どもたちをランダムにグループ分けし、一つのグループの子には「あなたは頭がいいね」と能力を褒め、別のグループの子には「よく頑張ったね」と努力を褒める対応をしました。その結果、能力を褒められた子たちの中には、後のテストで難しい問題にチャレンジしなかったり、実際よりもよい点数が取れたと嘘をついたりした子がいたといいます。
普段から成果や人格ばかり褒められていると、失敗したときに「どうせ私は頭がよくないから」と、諦めてしまいます。
もしも努力した過程を見ていないときは、無理にコメントするのではなく、子どもにどのように取り組んだかを聞くなどして、表面的な褒めにならないように心がけましょう。
具体的に伝えることを意識する
褒めるときは「えらいね」「上手だね」などと抽象的に褒めるよりも、具体的に褒める方が、子どものモチベーションアップにつながります。具体的な理由がなく褒められても、何がよくできたのかや、どんな点が相手の感情を動かしたのかなどがわからないからです。
褒める際には、無理に他と比べて優れた点を見つけようとする必要はありません。
たとえば「たくさん切って貼って本物みたいにできたね」など、見たまま・ありのままのできたことを具体的に述べるのも有効です。
子どもと一緒に、喜びや驚きなどの感情を共有することで、一緒にいる幸福感・一体感まで味わえるでしょう。次からは、ケース別に子どもを褒めるときの声かけを解説します。
出典:島村華子「モンテッソーリ教育・レッジョ・エミリア教育を知り尽くしたオックスフォード児童発達学博士が語る 自分でできる子に育つ ほめ方 叱り方(Kindle版)」株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン、p401-442(2020)
言葉かけ例1:字が上手く書けたとき
「才能あるね」のように表面を見るだけの褒め方はNGです。
また「上手!」といった漠然とした褒め方も、おざなりに言われていると子どもが感じることもあります。平仮名やカタカナといった文字を書くのは、まだ手指が発達していない子どもにとっては難しいことです。
より具体的に、「諦めずに最後まで丁寧に書けたね」「たくさん練習してできるようになったんだよね」など、結果ではなくプロセスにフォーカスして褒めることを心がけるとよいでしょう。
言葉かけ例2:他の人に優しくしたりお手伝いしたりできたとき
「優しいね」「えらいね」と人格を褒めるのではなく、「今どうぞって言ってあげたんだね。素敵だなって思ったよ」「手伝ってくれてありがとう。嬉しかったよ」など、具体的に行動を褒めるのがポイントです。
特に大切なのは、「私は●●だと思った」のように、「私」を主語として伝えることです。これによって自分の判断を押し付けずに相手に判断を委ねられるため、相手を尊重していることが伝えられます。
褒めて伸ばすために心得たい!子どもを叱るときの注意点
褒めて伸ばすためには、褒めるばかりではなく、注意すべきところは注意して叱ることも重要です。ここでは、子どもを叱るときの注意点を解説します。
感情的に怒るのではなく「伝える」ことが大事
叱るときは感情的になって怒りをぶつけるのではなく、冷静に何がいけないのかを「伝える」ことが大切です。
「どうしてこんなことするの!」などと感情的に気持ちをぶつけてしまうと、「怒られた」という印象だけが強く残ってしまい、一番伝えたいことが伝えられません。
「こぼしたときは、これで拭こうね」「遊び終わったら、しまおうね」など、あくまでも「伝える」ことに注力しましょう。
子どもを怒るときのゴールは、言うことを聞かせたり、謝らせたりすることではありません。怒って子どもをコントロールしていないか、常に振り返ってみるとよいでしょう。
代わりにやってほしいことを伝える
子どもがいけないことをしたときには、その行動の代わりに「どのような行動をしたらよいか」をできるだけ具体的に伝えましょう。「どうしていけないのか」「どのように行動したらよいのか」がわかっていないと、同じ行動を繰り返して、また叱ることになってしまいます。
たとえば、お友達のものを勝手に取ったら、「遊びたいときは『かして』って言おうね」
「これはお母さんのものだから、返してね」などと声をかけましょう。子どもが言うべきセリフも交えて、わかりやすくシンプルに示すことで、気持ちと言葉・行動を結びつけて、少しずつ上手に表現できるようになっていきます。
出典:モンテッソーリ教師あきえ「モンテッソーリ教育が教えてくれた「信じる」子育て」すばる舎(2021)p187-188
一度でできるようになることを目指さず繰り返し何度も伝える
子どもにやってはいけないことを伝えるときには、「一度でできる」とは思わないことが大切です。
子どもは言われたことを一度ですべて完璧にできるようにはなりません。「この間、だめって言ったでしょう!」と感情的にならずに、何度も伝えることが大切です。
強く怒ったり脅したりしても、そのときは恐怖で言うことを聞くかもしれませんが、忘れて同じ間違いをすることは大いにあります。前述した「やってほしくないことを伝える」「代わりにどうしたらいいか伝える」ことを、辛抱強く伝えていくようにしましょう。
まとめ
褒めて伸ばす方法には多くのメリットがありますが、むやみにおだてることには弊害があります。
褒めるときは子どもをコントロールしようとするのではなく、良し悪しに関わらず子どもを認める姿勢が大切です。
また、叱るべきときにはしっかりと叱り、メリハリを付けることも必要です。子どもを信じ、認める心構えをもって接すれば、きっと大きなプラスの影響を与えられるでしょう。